「ILC(国際リニアコライダー)が明かすタマシイの素材?」

セルン(ヨーロッパ合同原子核研究機構)の巨大円形加速器LHC(ラージハドロンコライダー)がパワーアップしました。
LHCは2012年にヒッグス粒子を検出し、それが2013年にピーター・ヒッグス博士らのノーベル物理学賞授賞へとつながりましたが、実はヒッグス粒子についてはまだその実態がよく判ってないんです。
けど、ヒッグス粒子(ヒッグス場)が宇宙に存在しなければ、物質が成り立ちませんし、もし宇宙からヒッグス粒子(ヒッグス場)が消えたら、その10億分の1秒後には人間の身体も素粒子レベルまでバラバラになり、光速で宇宙空間に飛び散ることになるでしょう。

そんなヒッグス粒子を精密に測定できるILC(国際リニアコライダー)の建設予定地は日本が最有力候補に挙げられていて、そうなった場合は岩手県の北上山地(北上高地)に決定しています。
あとは予算が下りるかどうか…………

ジュネーブのLHCは円周が27㎞もある円形加速器ですが、円形の場合ですと都合が悪い問題点がありまして、それを解決するには直線の長ーい加速器が必要になってくるわけです。
その長ーい加速器こそが北上山地に建設予定のILCでして、全長が31㎞もある直線加速器です。
直線といっても、向こうから来た電子のバンチ(200億個の電子のカタマリ)と、こっちから行った陽電子のバンチが衝突する中央部分だけは、約0.8度だけ「へ」の字に曲がってますけども。
そうしないと、衝突しずに相手のバンチをすり抜けた電子や陽電子が向こう側の装置を破壊してしまうので、少し角度をつけることですり抜けた粒子を他へ逃がすんです。
ひとつのバンチは200億個の電子(陽電子)の限りなく小さなカタマリで、そんなバンチが1回に1000個~2600個も打ち出されるんですが、それをわずか1秒間で5回も繰り返します。
ということは、1秒間に打ち出される電子と陽電子の合計は最大で5200兆個。
電子2600兆個と陽電子2600兆個が向こうとこっちからほぼ光速(秒速3億㍍=30万㎞)で衝突するんですが、実はそのほとんどがすり抜けてしまいます。
互いがぶつかり合うのはごくわずか。

ほとんどすり抜けるのはスーパーカミオカンデでも同じでして、茨城県東海村のJ-PARCからは1秒間に1000兆個のニュートリノを奥飛騨の神岡へ向けて撃ち込むので、それが1日の合計ともなればとんでもない数になりますが、スーパーカミオカンデで検出できるニュートリノは1日に10個程度。それほど検出がむつかしいんです。
ニュートリノはほとんど何でも通過してしまい、地球も端から端まで0.043秒で通り抜けてしまうほどなので大量のニュートリノが必要になるんですが、へヴィメタ物理学者の多田将さんはこうおっしゃってました。
「下手な鉄砲、数撃ちゃ当たる!」

さてILCに戻りますが、ILCの場合は衝突させる電子も陽電子も素粒子です。ここがポイント。
セルンのLHCでは陽子のカタマリ同士を衝突させていますが、陽子は素粒子ではありません。中身がありまして陽子は2つのアップクォークと1つのダウンクォークから成り立っています。
とは言っても3つのクォークの合計質量は、陽子全体(938MeV)の2%にすぎず、陽子同士を衝突させるといろんな雑音が飛び散ってしまうので、観測したいクォーク同士の衝突を探し出すのが大変なんです。

それがILCで衝突させる電子と陽電子は素粒子のため、衝突した際に発生する雑音がほとんどなく、素粒子同士の衝突する様子やそこに生まれる新たな素粒子を精密に観測できることになります。
発見が期待されてる粒子はたくさんありまして、LHCで見つかったものとはエネルギーが違う新たなヒッグス粒子とか、いまだに存在のきざしが見えない超対称性粒子とか、まさかまさかでダークマターの痕跡とか、何が出てくるか楽しみです。
それらの粒子が発見されたところですぐにタマシイの素材が特定できるわけではないでしょうけど、宇宙誕生1兆分の1秒後の状態を再現しようとしているわけですので、期待しずにはいられません。
けど、何をどうしたらそれが宇宙の始まり1兆分の1秒後だってことが判るんでしょうねぇ?

2015/ 7/21 12:29

2015/ 7/21 12:29