「和製アインシュタイン、南部陽一郎」

今日も「宇宙と素粒子について」の講演会があるため、話す内容を頭の中でシミュレーションしながらハチの散歩から帰ると、朝刊の一面に南部陽一郎教授の訃報が出ていました。
「予言者」
「10年先のことは南部に聞け」
「和製アインシュタイン」
福井県出身の天才物理学者はそう呼ばれ、2008年に「自発的対称性の破れ」理論でノーベル物理学賞を受賞されてますが、物理学界では”遅すぎる”とささやかれていました。
なぜなら、過去に南部教授の発表された理論は、すでに3つのノーベル賞が授与されていても不思議ではないほどの内容で、和製アインシュタインの名は決して大げさではないんです。
けど、考えてみればアインシュタインも南部教授と同じでした。

アインシュタインは1921年にノーベル物理学賞を受賞していますが、それは「光電効果の解明」に与えられたもので、相対性理論では受賞していません。
理由は、あまりにも難解だったために、当時はほとんど誰も理解できなかったからだと言われています。
ちなみに「光電効果の解明」での受賞も、受賞式には参加せず日本を訪問していました、あのアインシュタインは。

南部教授も「自発的対称性の破れ」以外に「ヒモ理論」や「カラーチャージ」の概念などを次々に発表されていまして、それぞれがノーベル賞級なんですが、どれもこれも難しすぎて説明できません。

“10年先のことは南部に聞け”
面白い話があります。
南部教授と同世代の物理学者で、カリフォルニア大学バークリー校のブルーノ教授は、アメリカの科学雑誌にこんなことを語っています。
「南部が何を考えているかを探れば、他の物理学者の10年先を行ける。そう思って彼と長い間やりとりを続けたことがある。ところが、私が彼の話を理解できたのはそれから10年後だった」
笑えますでしょ。

南部教授はアメリカへ拠点を移してからアインシュタインとも交流がありました。
当時は研究所内で”アインシュタインの邪魔をしてはいけない”という不文律があったようですが、それでもアインシュタインの部屋を訪ね、興味があることは納得できるまで食い下がったそうです。
でなきゃノーベル賞級の論文をいくつも書けないでしょうけど。

南部陽一郎語録。
「どんな自然現象でも、何らかの数式で解けるはずだと考えています」

「私はノートで計算すると気が散ってダメなので、頭の中で計算する。すると夢の中に数式が出てきて動くんです」

「難しい問題に行き詰まると、いったんそれを忘れる。すると無意識のうちに脳が働くようで、あるとき突然、解決の筋道が見えてくる」

「自分の頭で徹底的に考えることは何よりも大事なことなんだ」

このようなことは2008年に南部教授と一緒にノーベル物理学賞を受賞された益川敏英教授や、2002年に同じくノーベル物理学賞を受賞された小柴昌俊教授も同じことをおっしゃってます。
知識がないところから生まれる”感じた”ことは薄っぺらいし、あまり役に立たない。
それに、たいていが自己弁護か自己アピールにつながる。

南部陽一郎教授、享年94歳。
日本人には珍しく、ダンディーな物理学者でした。
時代が追い付くにつれ、南部教授の偉大さに世の中が気づくでしょう。

2015/ 7/18  9:01