糺日本書紀 part11

part9でお話しした万葉集の歌についていくつかの質問が来てますので、その関連話題をいくつかお話しします。
皆さん、万葉集に興味をお持ちなんですね。ボクは才能がないので歌がさっぱり理解できません。

さて、香久山・耳梨(耳成)山・畝傍山をそれぞれ天智天皇・天武天皇・額田王(ぬかたのおおきみ)の三角関係に例えてうたった歌は、万葉集の巻一の13番歌です。
「香久山は 畝火雄々(をを)しと 耳梨と 相争いひき 神代より 斯(か)くにあるらし 古昔(いにしえ)も 然(しか)にあれこそ うつせみも 嬬(つま)を あらそふらしき」
んー、解説してもらわないと、未だによく理解できない。

巻一の13番歌の表向きな意味は、
「香久山と耳梨(耳成)山は、畝傍(畝傍)山に対して(自分の方が)男らしいと恋のつばぜり合いをしたという。古(いにしえ)の神代でさえも恋の争いがあったのだから、人の時代に恋の争いがあるのも仕方ないことだろう」
みたいになるんだそうですけど、あんまり面白くないですよね。
学校の授業はこんな程度だったのでまったく興味が持てず、成績は10段階評価で”古文”も”漢文”も「1」でした。

この歌の中では
香久山=天智天皇
耳梨(耳成)山=天武天皇
畝火(畝傍)山=額田王
に比定されています。

この歌を李ヨンヒ氏が古代朝鮮語で読み解いてみたところ、
「海人(それは大海人=天武天皇)が動き始めた。同盟は傾いたので伊理(いり=蘇我入鹿一族)を斬り出そう。今こそ私(天武天皇)が」
とまぁ驚く意味が隠されてまして、蘇我入鹿の暗殺予告なんです。
なので畝傍山は額田王ではありません。蘇我入鹿です。
畝傍山には蘇我蝦夷(えみし)の屋敷があることからして、畝傍山は蘇我氏を示しているんだそうです。
けど、こんな話は奈良県の博物館や歴史館で学芸員氏に聞いたところでまともには相手にされません。悪しからず。
百円でカルビーポテトチップスは買えますが、
カルビーポテトチップスで百円は買えません。悪しからず。
by 藤谷美和子。

万葉集の歌はすべてが古代朝鮮語で裏読みできるわけではありません。それができるのはごく一部の歌だけで、大陸から来た渡来人でも日本で生まれ育った2世3世はそれをしていませんし、できなかったと思われます。

ですが万葉集には古代朝鮮語での裏読み以外にも興味深い解釈の仕方がありまして、それは政治的な意味合いで読み解くということ。
万葉集の歌には政治的な駆け引きがふんだんに含まれていて、奥に込められた意味合いがこれほどまでに面白いとは知りませんでした。
例えば巻一の16番歌というのは、天智天皇が”春山の花”と”秋山のもみじ”はどちらが良いかを問いかけたことに対する額田王の歌で、これが実に面白いんです。
一般的な解釈を要約するとだいたいこんな感じになります。
「春が来ると鳥が鳴いて花も咲く。けど山には深い草が繁って立ち入ることができない。秋山は色づいた黄葉(もみじ)を手に取ることができる。恨めしいことに私は秋山ですから」
最後はなんで恨めしいのかよく判りませんが、単純に判断すれば春山よりも秋山の方がいいです、と言っていますよね。

さて、ここで政治的な意味合いなんですが、春山=天武天皇を表しています。
天武天皇は木徳の人ですから、季節は春、方角は東、色は青で四神は青龍になります。
一方、天智天皇は金徳の人なので、季節は秋、方角は西、色は白で四神は白虎。
したがって、秋山とは天智天皇のことです。
つまり、天智天皇による春山と秋山はどちらが良いかという問いかけは、天武と私(天智)はどちらが優れているかを答えさせているんでした。面白い!
それで額田王は天智天皇と同じ父(百済の武王で後の第34代舒明天皇か?)を持った身内ということで、本当は春山=天武天皇が好きなんだけど、私は秋山=天智天皇側の血縁なのが恨めしい、のだと。
なるほど。めちゃくちゃ面白いですね。

だったらこれはどうでしょう。ボクでも知ってる超有名な歌です。
「春過ぎて 夏来るらし白たえの 衣干したり天の香久山」
“春”は天武天皇なんですが、ここでの天智天皇は”白”だそうです。
では夏は?
この場合、大津天皇(天武朝の最後の4年間は大津皇子が即位していた)になるんですって。
そして”干(す)”の原文は”乾”の文字であり、理由は省きますが高市天皇(=持統天皇。高市皇子が即位したのが持統天皇であり、ウノノサララは即位していない)を示しており、さらに最後の”香久山”は高市皇子の屋敷があった場所でした。

表向きの意味を聞くと何で香久山に洗濯物が干してあるのかが疑問でしたが、政治的な解釈だとこうなります。
「天武朝の春が過ぎ、大津朝の夏が来たが、結局は白い天智朝の(血を受け継ぐ)私=高市天皇が天下人になった」
ということなんですって。超納得です。
☆繰り返しになりますが、高市皇子は天武天皇の子ではなく、天智天皇の第一子で韓半島の済州島出身。日本書紀を信じるな!

参考文献
「本当は怖ろしい万葉集」「万葉集で解く古代史の真相」共に小林惠子(やすこ)著。

あー、面白かった。