糺日本書紀 番外編その1

子供が中国の大学に留学しているんですが、書道が楽しくて仕方ないみたいなんです。
それで、卒業論文も書道についてをテーマにしたようで、いつもこんなメールを送ってきます。
最近は古代史についての調べ事があまりにも忙しく、弥栄古代史研究室もほったらかしになっているので、親子のメールのやりとりで繋げておきます。

【子より】
ちょうど今、日本の書の歴史についても調べていて、厩戸皇子が記した書が天皇家の使ってる書体にとても似ているとかですが、まともに書道が伝わって来たのがちょうど厩戸皇子の時代だったり、そもそもこの書体が確立されたのが平安時代だったりと色々不可解なのですが、厩戸皇子は結局誰がいつ想像した人物なのですか?

それでもってその書体が中国には存在しない日本独自の書体ということになっていて、実際に中国で厩戸皇子の書いた筆体の特徴を捉えているものは少ないというか、ほとんどなさそうです。
それはかなり漢字伝来の時期の中国の主流の書体とは異なっていて、まぁ中国の具体的にどの地方から伝わったのかとかよくわかってないから何とも証明しようがないけど、とても1人の人が確立したとは思えないような書風です。
いったい、どうなっているんでしょうか?

【父より】
厩戸皇子は蘇我馬子と同時代に活躍した聖徳太子のことで、蘇我氏を悪者にするために創作された架空の人物だと近年まで思っていましたが、実在していました。
中国名ではタリシヒコといい、西突厥(にしとっけつ)の部族王です。
西突厥は現在のカザフスタンあたりを支配していた国で、タリシヒコの現地名は達頭(タルトゥ)、ササン朝ペルシャではシャフリバザールの名で呼ばれていました。
達頭の父はペルシャ系の西アジア人であり、母はエフタルと呼ばれる騎馬民族の中の鮮卑(せんぴ)族でして、父も母も西アジアの人なので達頭もゾロアスター教(拝火教)を信仰していたであろうから、倭国へもその文化を持ち込んでいます。
(そのころはまだイスラム教は起こってません。念のため)

達頭の子が実際に何人いるのかを調べるのは不可能なんですが、判っている子もいるんです。
例えば、ある戦いでササン朝ペルシャの王であるホスロー2世を達頭が助けた際に、ホスロー2世の娘が達頭に嫁いでいまして、その2人の間に生まれた子が3人います。
1人はヤズドガルド3世で、後にササン朝ペルシャの王になりました。
1人は高句麗の嬰陽王の子として育てられた太陽王ですが、太陽王は嬰陽王の実の子ではないため高句麗の王になれず、641年に百済の武王を殺して自らが百済の義慈王になりました。
そしてもう1人は娘なんですが、殺された百済の武王の王妃が達頭の子です。彼女は済州島へ島流しになった後の643年2月ごろに高句麗人の手を借りて倭国の九州へと渡り、655年に斉明天皇として即位しています。
日本書紀でも斉明天皇についての条は、明らかにゾロアスター教の習慣が出てきまして、以前からその点については議論されてますが、斉明は西アジア人なんだから当然のことなのでしょう。
ちなみに斉明天皇が嫁いでいた百済の武王を、641年に殺した高句麗の太陽王(のちの百済の義慈王)は、倭国でも孝徳天皇として即位してます。つまり、百済王と倭王を兼ねていたわけですね。
ただし、唐は絶対に認めませんでしたし、実際に唐の勢力に追われて百済へ逃げています。

そんなわけで、厩戸皇子の書といっても信憑性においては疑問があります。
聖徳太子があまりにも聖者にまつりあげられているため、いろんな噂が囁かれていますが、どれも確実なものはないですし、父さんはすべて疑ってます。

ちなみにですが、三國志の魏書の中にある東夷伝の倭人条(これが通称”魏志倭人伝”です)には、邪馬台国の女王卑弥呼が出てきますが、この卑弥呼は中国江南地方(揚子江の南側)から倭国へ渡ってきた許氏一族の女性です。
許氏については、呉の孫堅が江南から追放したんですが、彼らはシャーマン一族でいわゆる霊能者たちです。
おそらく卑弥呼の祖父は許昌、父が許昭なのではないでしょうか?

それと、ヤマトタケル(古事記では倭建、日本書紀では日本武尊で表記)も架空か、あるいは複数の人をヤマトタケルとしてまとめた話と思ってましたが、中国から渡来した慕容氏のようです。燕国(前燕)を建国したあの慕容氏です。
それで、慕容儁(シュン)がヤマトタケル本人で、父は慕容コウ(漢字は”皇”の右に”光”)。
ちなみに、慕容コウの弟の慕容仁は遼東で活躍したみたいですが、日本の第11代垂仁天皇のモデルが慕容仁のようです。もちろん、倭国においてそんな天皇は存在しませんし、慕容仁が倭国で即位していたわけではありませんよ。

それより、中国の大学で古代史を専門にしている先生に、天武天皇の正体である高句麗の淵蓋蘇文(中国では泉蓋蘇文とか蓋金の名前になっているかも?)について詳しく聞いてみてください。