日々是白馬村 part 46

12月20日(金)、久しぶりにアルプスが麗しき姿を披露してくれた。
10日(火)に晴れて以降は来る日も来る日も雪雲がアルプスの頂を覆い隠しており、白光に輝くその姿を拝せぬまま日々を送っていた。
なので今朝、カーテンの隙間から夜明け前の暗闇にうっすらと浮かび上がる白馬三山の美肌を目にした瞬間は呼吸が止まるほど驚いてしまった。
外気温は-12.1度。放射冷却によりこの冬一番の冷え込みだが、そんなことはどうでもよろしい。
さっさと準備を整えるとハチを抱きかかえて部屋を飛び出した。

新雪をラッセルしながらあぜ道に侵入して日の出を待つこと15分。しかしこの日もアルプスは赤く染まることなく夜は明けてしまった。どうして今年はモルゲンロートの鮮やかな夜明けが見られないのか。
地元の人はそんなことに関心がないので誰に聞いても判らない。同じアパートに白馬高校で特進クラスを受け持つ理系の先生がいるので次に会ったら質問してみる。

9時を過ぎたころ、まばゆい雪晴れに誘われて再びハチと散歩に出た。
外気温は-8度ぐらいだろうけど風はないしお陽さま照ってポッカポカ。雪の反射もあり陽を直接受けるとダウンジャケットが暑い。着てこなけりゃ良かった。
半袖で歩いているオーストラリア人がいて陽気に
「ハーイ、こんにちは」って。
「はい、こんにちは。良いお天気ですこと」

ダウンジャケットが必要なくても雪眼鏡は必需品で、色眼鏡とも言う。要はサングラスのことだが、これを掛けてないと本当に目が見えなくなるし、昨シーズンは2回なった。

駅裏からの眺めは相変わらず美しく、先へ行きたがるハチを引き止めてしばらく見入っていた(写真 1)。

この位置からだと駅の向こうの左側に、商業施設を併設する5階建ての五つ星ホテルが建設されることになった。商業施設は2026年12月に、ホテルは翌27年12月の開業を目指しているらしい。
白馬村の規約で高さは18メートルまでに抑えられるだろうが、五竜岳の麓あたりが隠れてしまうかもしれない。
ホテルは外国人と富裕層向けで1泊10~20万円の設定になると新聞記事で読んだ。永遠に関係ない。関係ないけど気になるので絵はがきぐらい買いに行ってみる。

ハチは数日ぶりの遠出が楽しいのか、雪道に構うことなくどんどん突き進んで行くので調子に乗って4㎞近く歩いてしまった。
広い道路はしっかり除雪されているので、歩きやすいのかもしれない(写真 2)。

そうだハチ、道祖神さんに挨拶しに行こう。この道沿いの道祖神はpart 40でも紹介している。
がしかし、すでに近づくことができなくなっていた。雪の中にたたずむ双体道祖神(写真 3)。

それにしても散歩に出てから90分以上は経っている。おいハチ、そろそろ帰ろうか。
想いが通じたのか、ハチがアパート方面へ向かう細い道へ逸れてくれた(写真 4)。

村では、前の晩にある程度の積雪があると幹線道路だけでなく、民家があればそこへ通ずる道も夜明け前の暗いうちから除雪車が入る。なので明るくなったころにはいつでも通行できるようになっており、ひと冬で除雪関連予算は2億2千万円が当てられている。本当にありがたい。

ただ問題は除雪車が集めた雪は、民家がない路地や農道にどんどん詰め込まれていくため、積雪期はハチと散歩する道が半減してしまう。
ハチが逸れた道の入り口には雪が詰め込まれてないし、車が入った跡も残っているので大丈夫そうだ。
と安心したのは思い違いで、しばらく進むと新雪のラッセル歩行になってしまった。
ボクの長靴は膝まであるため何とか埋もれずに進める。
この先には歩行者用の小さな踏み切り(part 37で紹介)があるのでそこまで頑張れば何とかなるであろう。あと50メートル。

何ともならなかった。
踏み切りは冬季封鎖になっており、通り抜けができないように柵が設けてある。
するってえと、今の道をまたラッセルしながら戻れってことか。それは無理。無理なので柵の脇を通り抜けて踏み切りを渡った。渡ったらいきなり雪が深くなり、膝上まで埋まってしまう。悪いことはできない。
長靴の中にもジャンジャン雪は侵入してくるが、戻ることもできないし左右へ逃げるにも道がないのでそのまま進んでいたら、正面に雪山が現れた。
その先を通っている国道に積もった雪が除雪車によってここへ詰め込まれていたのだ。高さはおよそ3メートル。これを越えないと帰れない。
あいにく雪山登山の装備は持ってない。ザイルもなければアイゼンもない。ビーコン(雪崩に巻き込まれた際、居場所を知らせる信号が発信される装置)なんてもちろんない。
仕方ないので低くなってる脇の方をヘツッて行こうと足を踏み入れた瞬間に腰まで埋まってしまった。
遭難だ。山岳救助隊に連絡してくれ。
と叫びたいところだが、人通りが多い国道まで30メートルのところから救助の要請をしても叱られるだけだろうから、ハチを抱きかかえたまま雪まみれになって何とか脱出に成功した。
これが山奥だったら冗談抜きで遭難してたかもしれない。だから素人は単独で雪山へ入ってはいけないのだ。3メートルでも遭難しかけたのだから。楽しかったけど。

無事に生還し、アパートでくつろぐハチ(写真 5)。